تسجيل الدخول翌日の昼休み、めぐと一緒にお弁当を食べようとしていると、クラスメイトに声を掛けられた。
「どうしたの?」
「2年の先輩に柚希ちゃんのこと呼んでっていわれたんだけど」そう言われて入り口を見ると、水瀬先輩が立っていた。
水瀬先輩も新島先輩程ではないけど、美人なので周りがザワつく。 「うわっ、水瀬先輩じゃん!」 「やっぱ凄い美人だなぁ」などと言っている男子に対して
「あはは、どうもどうもー」
と、いつも通りの笑顔で応えている。
そんな水瀬先輩の所へ行き問いかける。「どうしたんですか?」
「急に来てごめんね。話したい事があるんだけど、ちょっといいかな?」 「はい、大丈夫ですよ」私はめぐに一言告げて、水瀬先輩と一緒に教室を後にする。
移動している間、何故呼び出されたのか考える。 やはり、昨日の事だろうか?「誰も居ないし此処でいっか」
と言って水瀬先輩は理科室に入っていく。
私も後に続いて教室に入り、扉を閉めた瞬間 「昨日はごめんなさい」と言って頭を下げてきた。
少し驚いたが、やはり昨日の事で呼ばれたようだ。「そんな、悪いのは私です。あんなに失礼なことを――」
「ううん、違うの」私が頭を下げようとすると水瀬先輩に止められた。
「今日はお礼を言いにきたの」
「え? お礼……ですか?」 「うん! 昨日柚希ちゃんに色々言われて考えてみたんだ」 「……はい」 「それでね、そのお陰で私、ようやく決心がついたの。私は佐藤の事を諦めない!」そう力強く宣言する水瀬先輩の顔はどこかスッキリした様に見えた。
「だから柚希ちゃんには感謝してるんだ。ホントにありがとう」
色々吹っ切れたようで良かった。
だけど、まだ一つ引っかかる事がある。なので私は躊躇いなく質問をぶつける。「良かったです。でも、新島先輩の事はどうするんですか?」
「そんなの決まってるじゃん! 楓の事は応援するよ。だけど、私は私で頑張る!」 「いいんですか? 二人は親友なんですよね?」 「親友だからだよ。同情なんてされたくないし、私は楓と対等でいたいから」 「水瀬先輩……」 「恋は真剣勝負! でしょ? 柚希ちゃん」そう言って水瀬先輩は太陽の様な笑顔を見せる。
私も笑顔で応える。「そうでしたね。応援してます先輩!」
「うん、ありがとう! あっ、そういえば連絡先交換してなかったね」 「そうですね。水瀬先輩あの時走って帰っちゃいましたもんね」 「あーもう! アレはナシナシ、あんなの私じゃないもん」 「あはは、ごめんなさい」冗談を交えつつ連絡先を交換する。
「それじゃあ私、先に行くね。これからもよろしくね柚希ちゃん」 「はい、こちらこそよろしくお願いします」先に出ていった水瀬先輩の後ろ姿を見送りながら一人考える。
水瀬先輩は凄いなぁ。 叶わない恋に対しても本気で向き合ってる。 だけど私は自分の気持ちが分からない。 私の中にあるモヤモヤは何なのだろう。 そう考えた時、お兄ちゃんの顔がチラついた。 これってやっぱり……。それから数日後、テスト期間が始まり部活がなくなった。
放課後も残って勉強してる生徒も多い。私もめぐと勉強する為に帰り支度をしていると、一人の男子生徒が教室に勢いよく入って来た。
「おい、聞いたか!」
「どうしたんだよ、そんなに慌てて」 「また誰かにフラれたのか?」 「いや、俺じゃなくて! ……新島先輩がフラれたらしいぞ!」 「は? どういう事だよ」 「だ・か・ら! 新島先輩と佐藤先輩が別れたんだよ!?」 「「「えええぇぇぇーーーーーー!?」」」一気に教室中が騒がしくなった。
私とめぐも驚きを隠せない。 私が思わずめぐに視線を向けると、めぐはそれに気づいた。「私は平気だよ。もう気持ちの整理はついてるから」
「めぐ……」 「それよりも友也先輩大丈夫かな。まさかあの二人が別れるなんて……」めぐの疑問はもっともだ。
私ですらこんな事になるなんて予想していなかった。「お兄ちゃんならきっと大丈夫だよ。たぶん、何か理由があったんじゃないかな」
「そうだよね。それよりも今は勉強に集中しなきゃ」そう言っためぐは特に強がっている様子はない。
良かった……本当に気持ちの整理が出来てるんだ。その後、私達は気持ちを切り替えて勉強に勤しんだ。
だけど私はその間ずっと、お兄ちゃんに対して憤りを感じていた。 帰ったらどういう事かキチンと説明してもらわないと。 めぐとの勉強会で帰宅が遅くなった。 どうやらお兄ちゃんは夕飯を済ませ、部屋に篭っているようだ。 〈後で詳しい話聞かせて貰うから〉という内容だけ送っておいた。
私もササッと夕飯とお風呂を済ませる。 プロデュースして学校のアイドルと付き合えたのに別れるのは頭に来る。 どんな言い訳をしてきても、キチンと説明してもらわないと。そして11時になった。
お兄ちゃんが部屋に来るや否や「新島先輩と別れたって本当?」
と強めの口調で言った。
「ああ、本当だよ」
あっさりと言われたので少しムキになる。
「どうして別れる事になったのか説明して!」
私がそう言うと、お兄ちゃんは水瀬先輩の家に行った所から順番に説明した。
帰り際に水瀬先輩からされたキス。 水瀬先輩の恋心を尊重しようとする新島先輩。 そして新島先輩はお兄ちゃんと一度別れ、再び選んで貰うつもりのようだ。「へ~、水瀬先輩やるじゃん! 新島先輩も思い切ったな~」
なんだか感心。
水瀬先輩は宣言通りにアタックしていた。 新島先輩も水瀬先輩にちゃんと向き合った上での決断だったんだ。 二人共凄いなぁ。 お兄ちゃんには勿体ない気がしてきた。「っていうか、水瀬先輩にキスされたって何で言わなかったの?」
「俺自身パニックになっちゃってそれどころじゃなかったんだよ」 「その結果が新島先輩と別れる事になっちゃってるじゃん! ちゃんと相談してよね!」 「うっ! すまない」お兄ちゃんが私に相談しなかった事にイラだってしまった。
困った事があったら私に頼って欲しかったのに……。「でも、私に相談してても今回は別れてたと思うけどね」
「それじゃ結局今と変わらないじゃん」 「そうだね~、私がアドバイスしても新島先輩が折れなかったと思うし」 「楓はミナミに引け目を感じてたみたいだからな」水瀬先輩の覚悟は知っていた。
今思えば、いつかはこうなる運命だったと思う。 だから今回、お兄ちゃんを賭けた勝負になった。 「とりあえず、水瀬先輩をどうするかだね~」 「う~ん」 「とりあえずキープするとして、どうすれば納得するかな~」 「……は?」お兄ちゃんは目を丸くしていた。
「なんだよキープって」
「そのままの意味だよ。万が一新島先輩と別れた時直ぐに乗り換えられる様にしておくの」少し空気が張り詰める。
めぐとの二股デートを持ち掛けた時と同じ雰囲気だ。「俺がそれをやると思うか?」
「まぁやらないだろうね。言ってみただけ」断られるのは分かっていた。
お兄ちゃんは良くも悪くも誠実な人だから。 誠実だからこそ水瀬先輩の気持ちに気づかない。 部屋に沈黙が流れる。 私は考えを巡らせる。どうすればお兄ちゃんを説得出来るだろう?
どうすれば水瀬先輩の気持ちを少しでも伝えられるだろう? 私が水瀬先輩ならどうするだろう? 私がもしお兄ちゃんの事を――――「なぁ、今回は俺に任せてくれないか? 自分で決めたいんだ」
その言葉に思考が遮られる。 沈黙を破ったお兄ちゃんは、真っ直ぐな目でそう言った。あぁ、そうか。お兄ちゃんはお兄ちゃんで真剣に答えを出そうとしてるんだ。
そんな真っ直ぐな所は今も変わらない。だけど今は……その誠実さが伝わる度に私の心が締め付けられていく。
「それは水瀬先輩をキッパリ振るって事だよね?」違うって言って欲しい――――
「まぁ、そうなるかな」
少しくらいは視て欲しい――――
「水瀬先輩の気持ちは考えないの?」
こんなに強く深く想い続けていたのに――――
「考えたよ。その上で俺は楓を選ぶ」
新島先輩を選ぶとハッキリと告げられる。
お兄ちゃんはやっぱり新島先輩しか視えてないんだ。 水瀬先輩が……
お兄ちゃんが私のことをずっと好きだった……? にわかには信じられない言葉を聞いて混乱する。「だから柚希のことを気持ち悪いだなんて思わないし、俺のことが好きだと言ってくれて嬉しい」 真っ直ぐ、視線を外さずに言葉を浴びせてくる。 私のことを好きだと言ってくれて凄く嬉しい! だけど、それをどこまで信じていいか疑っている自分もいる。 そんな自分が嫌だとわかりつつも、私の口は勝手に動いていた。「新島先輩は? お兄ちゃんの初恋は新島先輩だったって言ってたよね」 そう問いかけると、お兄ちゃんは困った様に頭を掻きながら答える。「確かに楓は俺の初恋の女の子だ。でもそれは柚希以外での事なんだ」「私以外で?」 首を傾げる私にお兄ちゃんは説明を始めた。「ああ。さっきも言った通り、小さい頃から柚希の事を一人の女の子として好きだった。だけどそれは歳を重ねていく内に許されない恋なんだと知った。だから柚希以外の子を好きになろうと思った。けど、その時の俺は周りから孤立していたし、どこかで無理かもなって思いもあった」 孤立してしまった原因を作ってしまったのは私の所為だし、あの一件で余計にお兄ちゃんの事が好きになったんだっけ。「そんな時、一人の女の子が俺に話しかけてくれた。周りからボッチだのヲタクだの言われてる俺に対して優しく接してくれた。その当時の俺は自ら人を避けていたけど、その女の子と話している間の空間は凄く居心地がよかったんだ。そういう事も重なって俺は始めて柚希以外の女の子を好きになった」 そう語ってくれたお兄ちゃんに対して、私は更に意地悪な質問をする。「水瀬先輩の好意や、友華さんと沙月ちゃんに対してはどうなの?」「こんな俺に好意を寄せてくれるのは凄く嬉しかったし、俺自身みんなに惹かれていってた」 そして深く息を吐き、申し訳無さそうな顔をする。「だから皆とは付き合えないと伝える決意をするのに時間が掛かっちゃって申し訳ないと思ってる」 そう
私は今何て言った? 部屋の前で盗み聞きをして、沙月ちゃんとお兄ちゃんがそういう会話が聞こえてきて……無意識に部屋に飛び込んだ。 その後に沙月ちゃんと口論になって……それから――――『お兄ちゃんの事が好きなんだから!!』 そうだ……お兄ちゃんを盗られたくない一心で――――「柚希……今のって」 お兄ちゃんは状況が理解出来ないといった感じで見つめている。 それもそうだ。突然妹からあんな事言われたら混乱するに決まってる。「やったね柚希ちゃん。やっと言えたじゃん!」 沙月ちゃんが嗜虐的な笑みを浮かべながら私の肩をポンッと叩く。 ハメられた! きっと私が部屋の外で話を聞いてると踏んで沙月ちゃんは最初からこうなる様にお兄ちゃんに色仕掛けしてたんだ! 「っ!」「柚希ちゃん!」「ちょ、待てよ!」 どうしよう! どうしよう! どうしよう! どうしよう! 言うつもりは無かったのに! 妹として傍にいようって決めてたのに! 幾ら沙月ちゃんに煽られたからってあんな事言っちゃうなんて!「はぁ、はぁ……ここは?」 お兄ちゃんから逃げる事しか考えて無かったから、いつの間にか公園に辿り着いちゃった。 でも、ここまで来れば流石に見つかんないよね……。「はぁ……これからどうしよう」 ベンチに腰を下ろすと、つい言葉が漏れてしまった。「ビックリしてたなぁ……」 そりゃそうだよね。実の妹が異性として兄を好きだなんて思ってもみないだろうし。 はぁ……流石に嫌われちゃったよね……。「柚希! ハァハァ&h
『自分の気持に素直になってみたら?』 翌日になっても新島先輩の言葉が頭から離れない。 素直になっても報われないなら……もしかしたら気持ち悪い妹だと思われたらと考えてしまう。「ダメだなぁ……ネガティブな事しか浮かんでこない」 そう独りごちて、思考を振り払う様に頭を振る。それから大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせてお兄ちゃんの部屋のドアをノックして中に入った。「どう? お兄ちゃん。少しは良くなった?」「ああ、熱も下がって倦怠感も無くなったよ」 そう言って腕をぐるぐる回す。 「良かった。でもあまり調子に乗らないように! 今日一日は安静にしててね」「大丈夫だって」「ダメでーす。風邪はひき始めと治りかけが一番重要なんだから」「母さんみたいな事言うな」「はいはい、なんとでも言いなさい。とにかく安静にしてるんだよ」「はぁ、分かったよ」 諦めたようにベッドに横になるお兄ちゃんを見届けて部屋を出た。 少し体調が良くなったからって直ぐ調子に乗るんだから。 でも、良くなってよかった。 リビングでテレビを見ながら勉強しているとインターホンが鳴った。 まさかまた新島先輩が来たのかな? と頭の隅で考えつつモニターを確認すると、今度は沙月ちゃんが立っていた。 玄関を開けると沙月ちゃんは元気良く挨拶してくる。「柚希ちゃんやっほ~」「やっほー。もしかしてお兄ちゃんのお見舞い?」「うん。急だったけど大丈夫かな?」「大丈夫だよ。体調も良くなってきてるし」「よかった~」 家に招き入れお兄ちゃんの部屋まで案内する間、疑問に思った事を聞いてみる。「そういえば、どうしてお兄ちゃんが体調崩したって知ったの? 心配掛けない様に黙ってたのに」「昨日南さんから聞いたんだ~。南さんは楓さんから聞いたって言ってた」「そうだ
水瀬先輩の想いを聞いてから数週間が経った。 当初懸念していた接し方や態度も以前と変わらず、普段どおり接してきてくれるとお兄ちゃんから聞いた。 それに一番驚いたのは水瀬先輩が合コンにハマった事だ。 沙月ちゃんに無理矢理連れて行かれた合コンで、チヤホヤされたのが嬉しかったらしい。 合コンの度に「やっぱりトモより良い男いないや」とボヤいていたので、今でもお兄ちゃんの事は好きなんだと思う。 だけど水瀬先輩はお兄ちゃんにはそんな素振りを一切見せていないらしい。 多分それはお兄ちゃんが好きで、幸せを願っているからこそなんだと思う。 沙月ちゃんのお陰で水瀬先輩は気持ちの整理が出来たのは嬉しい反面、合コンにハマってしまっている事に関してはお兄ちゃんも心配していた。「沙月には感謝だけど、他にやりようはなかったのかなぁ」 とお兄ちゃんがボヤいていた。 まぁ自分の事を好きで居てくれた女の子がいきなり合コンにハマりだしたのだから複雑な気持ちなのだろう。 お兄ちゃんだけでなくグループの人達全員が水瀬先輩の変わりように戸惑っていたみたいだ。 それも最初の内だけで、今では水瀬先輩=合コンというキャラが定着しつつあるらしい。 実際私も何度か誘われたが丁重に断った。 そんな出来事がありながら中間試験も終了し試験休みに入ったのだが、休みに入った途端、お兄ちゃんが熱を出して倒れた。 そして今は看病の真っ最中だ。「もう、お兄ちゃんは無理し過ぎだよ」「ゴホッゴホッ! すまん……」 どうしてこうなったかというと、文化祭のライブが切っ掛けだった。 振替休日が終わり学校へ行くと、1年から3年まで分け隔てなく女子から猛アプローチを受けていた。 授業が終わり帰宅する時には、校門に他校の女子が出待ちまでしてたし。 アプローチされても軽く流せばいいのにお兄ちゃんは一人ひとり丁寧に対応し、睡眠時間をへらしてまでファン達の相手をしていた。 気持ちを無下にできないっていうお兄ちゃんらしい優しさではあったけ
昨日は凄い一日だったなぁ。 お兄ちゃんが水瀬先輩を振るシーンを見ちゃったり、その後参加した打ち上げの後での新島先輩とお兄ちゃんのやり取りを聞いたり。 新島先輩がなんで私にまで話を聞かせたかは未だに分からないけど、問題は水瀬先輩なんだよなぁ。 もしこれで水瀬先輩がお兄ちゃんから離れていってしまったら絶対お兄ちゃんのグループの雰囲気は悪くなる。そうなると中居先輩が黙ってないだろうし……。「それに……お兄ちゃんの好きな子ってやっぱり――」 試験勉強をしていたがどうしてもその事が頭に浮かんでしまう。 残る候補は沙月ちゃんだけだからほぼ確定なんだろうけど……沙月ちゃんはお兄ちゃんのことどう思ってるんだろう。 私のことを応援すると言ってくれてたけど、私の事を理由に断って欲しくない。 例えお兄ちゃんが沙月ちゃんと付き合ったとしても、私はお兄ちゃんの妹だし、これまで通り傍に居られるだけでいい。 そんな事を考えているとスマホの通知音が鳴った。 スマホを手に取り確認する。「水瀬先輩からだ……」 アプリを開いてメッセージを確認する。〈大切な話があるから今から話せないかな?〉 大切な話ってなんだろう? それよりも気持ちの整理はついたのかな。 とりあえず返信しないと。 〈大丈夫ですよ〉 〈ありがと。沙月ちゃんにも話すから今グループ作るね〉 わざわざ3人だけのグループを作って話すことってなんだろう? そう考えている内にグループへの招待が来たので参加する。 沙月ちゃんも参加して全員揃ったところで通話が掛かってきた。「もしもし、こんにちは」「南さんこんにちは~」「2人ともこんちはー。急にごめんね~」「いえいえ、大丈夫ですよ」「はい、丁度暇してたので問題ないです」 話し方や声のトーンはいつもと変わらない。
新島先輩に続いて水瀬先輩までフラれた。 そうなるとお兄ちゃんの好きな女性は必然的に沙月ちゃんって事になる。 沙月ちゃんには今まで色々相談に乗って貰ったり、私の唯一の理解者でもあった。 だからこそ私が沙月ちゃんを祝福してあげないと。「待たせて悪いな」「ひゃっ!」 考え事をしていたらいつの間にかお兄ちゃんが校門にやってきていた。 ビックリして変な声出ちゃったけど不審に思われないよね?「なんだよその反応は。ちょっと傷ついたぞ?」「ご、ごめん。ちょっと考え事してたからお兄ちゃんに気づかなくて」「まぁ遅くなった俺が文句言えないか。んじゃ行くか」「……う、うん」 水瀬先輩はどうしたの? という言葉を飲み込んだ。 私があの現場を見ていたと知ったら色々気まずいだろうし、何より水瀬先輩の事を思うと私が見てたという事実は無かった事にした方がいい。「文化祭は楽しかったか?」「楽しかったよ。特にお兄ちゃんのライブは興奮したなぁ~」「その話はやめてくれ。皆褒め過ぎなんだよなぁ」「とか言ってお客さんを凄い煽ってたりしてたじゃん」「あ、あれはああやれって言われたから仕方なくだよ」「それにちゃっかりクラスの宣伝までしちゃって~」「うぅ、あれは……もうなんとでも言え!」「あはは、ごめんごめん」 お兄ちゃんを揶揄っていると打ち上げ会場に着いた。 入店すると沙月ちゃんが出迎えてくれた。「柚希ちゃんいらっしゃ~い」「おじゃましま~す」 沙月ちゃんと軽いハイタッチをしながら挨拶を交わす。「あ、友也さん遅いじゃないですか~」「掃除当番だったから皆には先に行ってて貰ったんだ」「そうだったんですね。じゃあ早く着替えてきてください、忙しいんですから」「ああ、わか……って今日は客で来てんだよ」「え? 手伝ってくれ







